●受賞者の言葉

高柳克弘高柳克弘 (たかやなぎかつひろ)
1980年浜松生まれ。
東京都在住。
俳誌「鷹」編集長。
2004年第19回俳句研究賞受賞。
2008年評論集『凛然たる青春』(富士見書房刊)にて第22回俳人協会評論新人賞受賞。
ほかに『芭蕉の一句』(ふらんす堂刊)。
俳人協会会員 日本文藝家協会会員。


 田中裕明氏の句に「水遊びする子に先生から手紙」という句があります。
年々、私の中で存在感を増している一句です。写実的であるとか、人生観が現れているとか、そういったありきたりの批評語のくくりに容易に回収されてしまう句は多いにもかかわらず、この一句には、どうしてもそうしたレッテルを貼ることができないのです。伝統あるいは前衛という、俳句史において当たり前のように通用してきた区分すら、この句の前では無意味に思えてきます。飛び散る飛沫、夏の日差し、そこへ届けられる一通のまっしろな手紙――この句にたたえられた過剰なほどの眩しい光は、世界に充満している穢れを一瞬だけ見えなくさせます(もちろん、その過剰さが、かえってあらゆる醜悪や汚辱を照射するところもあります)。私の俳句も、そうした一句でありたいと願っています。

 畏敬する作家、田中裕明の名を冠する賞をいただけたこと、光栄です。
選考委員のみなさまをはじめ、賞の選考に携わってくださったすべてのかたがたに感謝いたします。
この賞の名に恥じないよう、今後も俳句の道を深めてゆければと考えています。